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渚の過去 ①

Author: 紅城真琴
last update Last Updated: 2025-06-11 19:26:14

みのりさんが帰り、美樹おばさんの用意してくれた部屋で、私と渚は横になっていた。

約1ヶ月ぶりの二人きりの時間。

言いたいことも、聞きたいことも一杯あったのに、今は何も言えない。

渚に会えて嬉しくて仕方がないのに、笑顔にもなれない。

それは、さっき見たみのりさんの涙が私の頭を離れないから。

「なあ、樹里亜」

「何?」

「・・・」

呼んだ渚も、返事をした私も次の言葉が出てこない。

私は起き上がり、渚の方を見た。

つられたように渚も起き上がる。

二人で正座して、お互いを見合った。

「ごめんな」

え?

「何で渚が謝るのよ」

「・・・」

渚はまた黙ってしまう。

色んな事がありすぎて、私も渚も気持ちが溢れそうになっていた。

「みのりさんが、渚のお母さんだったのね?」

「ああ」

「ここに来てから、ずっと良くしてもらったのよ」

「うん」

「私、美樹おばさんとみのりさんがいなかったら・・・」

今度は私が言葉に詰まった。

ここに来たときには、先のことが何も考えられなかった。

子供のことも、自分のことも、渚のことも、すべてが曖昧で決められないでいた。

でも、ここでみのりさんやシェルターに暮らす人達を見ているうちに、自分はなんて幸せなんだろうと思えた。

自分で暮らしていくだけの力があって、やりがいのある仕事があって、愛してくれる家族がいて、愛する人の子供もいて、贅沢すぎるくらい幸せ。

今までなぜそのことに気が付かなかったんだろうと思った。

「樹里亜」

「ん?」

「おふくろから、俺のことを聞いた?」

「うん。・・・少しだけ」

大学卒業と同時に音信不通になった、バカ息子。そう言っていた。

でも、とても会いたいと。

「おやじもおふくろも、俺に沖縄の病
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